値引きの限界は商談中に決めるな|留保価値とは?営業交渉で守るべき「最低ライン」【営業交渉術137の原理 #002】

「80万円なら、今日決めます」

100万円で提案していた案件で、顧客からこう言われたらどうしますか。

あと20万円下げれば受注できる。

営業担当者としては、かなり迷う場面です。

「今日決まるなら」「今月の数字もあるし」「ここまで商談を進めてきたし」

そう考えているうちに、90万円なら。いや、85万円なら。もう少しだけなら。と、少しずつ条件を下げてしまう。

価格交渉でよく起きる失敗です。

このとき重要になるのが、交渉学の基本概念である 留保価値 です。

留保価値とは何か

留保価値とは、「これを下回るなら合意しない」と、あらかじめ決めておく境界線です。

例えば、100万円の商品を販売するとします。

値引き余地はある。しかし、導入後の対応工数、原価、サポート費用まで考えると、85万円を下回ればほとんど利益が残らない。

この場合、85万円が、自社にとっての最低ラインになります。

つまり、85万円以上なら合意を検討する。85万円を下回るなら、その案件は取らない。

この境界を商談前に決めておく。それが留保価値です。

なぜ「商談中に考える」と危ないのか

価格交渉の最中には、営業担当者の判断を狂わせる要素がたくさんあります。

  • ここまで時間をかけた
  • 今月の売上目標が厳しい
  • 顧客の反応が良い
  • 今日決めてもらえそう
  • 上司に受注を期待されている

こうした状況では、本来の採算よりも、「この契約を取りたい」という気持ちが強くなります。

すると、最初は90万円までと考えていたのに、「あと5万円なら」「ここまで来たなら」と、自分で自分の限界線を後ろへ動かしてしまいます。

交渉中に最低ラインを決めようとすると、感情に引っ張られるのです。

「できれば90万円」は最低ラインではない

商談前に、「できれば90万円は欲しい」と考えている営業担当者は少なくありません。

しかし、「できれば」では弱い。

なぜなら、「できれば90万円」は希望価格であって、最低条件ではないからです。

必要なのは、「90万円が理想」ではなく、「85万円を下回るなら、この案件は取らない」という判断です。

留保価値は、願望ではありません。意思決定の境界です。

留保価値は価格だけではない

留保価値というと、価格の最低ラインだけをイメージしがちです。

しかし実際の法人営業では、価格以外にも限界条件があります。

  • 納期はこれ以上短縮できない
  • 支払サイトは90日を超える条件では受けない
  • 最低発注数量を下回るなら対応できない
  • 保守範囲はここまで
  • 契約期間は最低1年
  • この仕様変更までは対応するが、それ以上は追加料金

営業交渉は、価格だけを決める場ではありません。

複数の条件を組み合わせて合意をつくる場です。

だからこそ、自社として守るべき最低条件を、論点ごとに持っておくことが重要です。

値引き要求に対して「どこまで下げるか」ではなく「どこで止まるか」

営業担当者は値引きを求められると、「どこまで下げれば決まるだろう」と考えます。

しかし、その前に考えるべきなのは、どこで止まるかです。

例えば、顧客「80万円なら決めます」営業「80万円ではお受けできません。ただし85万円であれば、現在の仕様を維持したまま対応できます」と言えるかどうか。

この違いは大きいです。

最低ラインが決まっていなければ、80万円を聞いた瞬間に、「何とか近づけよう」と考えます。

最低ラインが決まっていれば、「85万円より下はない」という軸を持って話せます。

断るためではなく、良い合意をつくるための基準

留保価値を決めるというと、「強気に断るためのテクニック」のように聞こえるかもしれません。

しかし目的は、相手を突っぱねることではありません。

むしろ、悪い合意を避けるためです。

受注した瞬間はうれしくても、利益が出ない。現場に無理が出る。追加対応ばかり増える。社内から不満が出る。

そんな案件なら、本当に良い受注とは言えません。

営業の仕事は契約を取ることだけではありません。

会社に価値を残す条件で契約することまで含まれます。

商談前に決めるべき3つの最低ライン

1.価格の最低ライン

どこまでなら利益が残るのか。

原価だけでなく、営業工数、導入工数、保守、追加対応まで含めて考えます。

2.条件の最低ライン

価格だけでなく、納期、数量、支払条件、契約期間、サポート範囲など、守るべき条件を確認します。

3.そのラインを超えたら本当に断れるか

ここが重要です。

最低ラインを決めても、実際には断れないのであれば意味がありません。

前回取り上げたBATNA、つまり「この案件が成立しなかった場合の代替案」とセットで考える必要があります。

今日の実戦ポイント

今回覚えておきたいのは一つです。

限界線は、席に着く前に引け。

商談が始まってから、「どこまで下げよう」と考えない。

冷静な状態で、「ここまでは合意する。ここを超えたら合意しない」と決めておく。

それが、営業交渉で自社の利益を守る基本になります。


営業交渉術を体系的に学びたい方へ

留保価値は、営業交渉で守るべき条件を決めるための基本的な考え方です。

実際の商談では、価格だけでなく、納期、数量、契約期間、支払条件、競合、社内稟議など、複数の条件を同時に扱う必要があります。

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営業交渉術137の原理

このシリーズでは、交渉学・心理学・行動経済学・意思決定論・行動科学などから、法人営業の現場で使える137の原理を一つずつ取り上げます。

次回は 「ZOPA」。売り手と買い手の条件が重なる「合意可能領域」について解説します。

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