「105万円ですか。高くなりましたね」
前年100万円だったサービスを、今年105万円で提示したとします。
値上げ幅は5万円。
営業側から見れば、機能追加やサポート拡充を考えれば妥当な価格かもしれません。
ところが既存顧客は、「去年より5万円も高い」と感じる。
一方で、同じ105万円を新規顧客へ提示すると、「この内容で105万円なら安いですね」と言われることがある。
同じ商品。同じ価格。それなのに、なぜ評価が真逆になるのでしょうか。
その理由を説明するのが、参照点依存性です。
参照点依存性とは何か
参照点依存性とは、人は物事の価値を絶対的な数字だけで判断するのではなく、「何を基準に比べているか」で判断するという考え方です。
例えば105万円という価格。既存顧客は前年100万円を基準にしています。だから、105万円-100万円=5万円の値上げと感じる。
一方、新規顧客が「この程度なら150万円くらいするだろう」と思っていれば、105万円-150万円=45万円安いと感じる。
105万円という数字そのものは同じです。
違うのは、相手が立っている基準点なのです。
「高い」は価格そのものへの評価とは限らない
営業担当者が顧客から「高いですね」と言われると、価格を下げなければならないと思いがちです。
しかし、その前に確認したいことがあります。
「何と比べて高いのか?」です。
前年価格なのか。競合価格なのか。社内予算なのか。別商品の価格なのか。顧客が漠然と想像していた価格なのか。
比較対象によって、営業側の対応はまったく変わります。
去年より高いなら「今年の違い」を見せる
既存顧客が前年価格を参照点にしている場合、今年の価格だけを説明しても納得されにくいことがあります。
必要なのは、前年との違いを明確にすることです。
例えば、「昨年はここまででした。今年はこの機能、この支援、このサポートが加わっています」と比較する。
すると顧客は、「100万円から105万円へ値上がりした」だけではなく、「提供内容そのものが変わっている」と認識できます。
価格を説明する前に、参照点を調整するわけです。
競合より高いなら比較軸を確認する
顧客が「A社は80万円でした」と言ったとします。こちらは100万円。20万円高い。
ここですぐ20万円を値引きするのは危険です。
まず、何が同じで何が違うのかを見る必要があります。
導入支援。保守。対応範囲。品質。納期。保証。カスタマイズ。
これらが違えば、そもそも80万円と100万円をそのまま比較すること自体が適切ではない可能性があります。
営業は価格ではなく「比較の出発点」を見る
価格交渉で重要なのは、相手が提示価格を見た瞬間に、頭の中で何と比較したのかを想像することです。
相手の参照点が分からないまま説明を続けても、こちらと相手が違う物差しで話している状態になります。それでは噛み合いません。
「値上げ」だけを見せない
値上げ提案では特に参照点が重要です。
例えば、旧サービス100万円、新サービス105万円とだけ見せれば、5万円値上げです。
しかし、旧サービス100万円+追加機能+サポート拡充→新サービス105万円という構造なら、受け止め方は変わる可能性があります。
これは数字をごまかすという話ではありません。
顧客が正しく比較できる材料を出すということです。
商談で使える質問
顧客から「高い」と言われたら、すぐ反論せず、こんなふうに聞いてみます。
「差し支えなければ、どの価格と比べて高いと感じられましたか?」
「以前のご購入価格との比較でしょうか?」
「今回のご予算との比較でしょうか?」
この質問だけで、顧客の判断基準が見えてくることがあります。
今日の実戦ポイント
今回覚えておきたいのは、価格を見るな。相手が立っている基準点を見ろ。です。
同じ100万円でも、90万円を基準にする人には高い。150万円を基準にする人には安い。
価格の評価は、数字だけでは決まりません。
営業交渉では、その数字を相手がどこから見ているのかまで確認することが重要です。
営業交渉術を体系的に学びたい方へ
価格交渉では、価格そのものだけでなく、顧客が何を基準にその価格を判断しているかを理解する必要があります。
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営業交渉術137の原理
このシリーズでは、交渉学・心理学・行動経済学・意思決定論・行動科学などから、法人営業の現場で使える137の原理を一つずつ取り上げます。
次回は 「参照価格」。顧客の頭の中にある「これくらいだろう」という価格の基準について解説します。