「この研修、30万円なんですね。ちょっと高いですね」
営業担当者にとって嫌な一言です。
ここで、「では25万円ならどうでしょう」と値引きしたくなるかもしれません。
しかし、その前に一つ聞くべきことがあります。
「何と比べて高いのですか?」です。
顧客が頭の中に持っている、「この商品なら、これくらいだろう」という価格。これを 参照価格 といいます。
参照価格とは何か
参照価格とは、顧客が商品やサービスの価格を評価するときに使う、頭の中の価格基準です。
例えば研修30万円。それを高いと思うか安いと思うかは、顧客が何を基準にしているかで変わります。
以前頼んだ講師が15万円だった。ネットで20万円程度の研修を見た。社内予算が25万円だった。競合から18万円の見積もりが来た。
こうした数字が参照価格になります。
「30万円は高い」の正体
例えば顧客が、以前90分の講演を15万円で依頼した経験があったとします。
今回の商品は、事前ヒアリング。3時間の研修。ケース演習。実施後レポート。まで含めて30万円。
しかし顧客の頭には、「研修=15万円くらい」という参照価格がある。
すると30万円は、「倍の価格」に見えます。
営業側からすると、「内容が全然違うのに」と思うでしょう。
でも顧客は、まだそこを同じ条件で比較していません。
高いと言われたら「比較対象」を聞く
この場合、値引きする前に、「差し支えなければ、高いと感じられた基準を教えていただけますか?」と聞きます。
そこで、「以前お願いした講師が15万円だったので」と分かれば、営業側は初めて正しい説明ができます。
「前回と同じ90分講演だけであれば、当社でも近い価格帯です。今回は事前設計、3時間研修、演習、実施後レポートまで含まれています」
こう説明すれば、顧客も、「そもそも比較していた商品が違った」と気づくことができます。
参照価格を知らずに値引きすると何が起きるか
顧客が30万円を高いと言う。営業がすぐ25万円に下げる。
このとき営業側は、無意識に、「あなたの価格基準が正しいです」と認めていることになります。
しかも、30万円という価格の根拠を自分で弱くしてしまう。
顧客から見れば、「言えば下がる価格だったのか」とも受け取れます。
これはその後の交渉にも影響します。
参照価格はどこから生まれるのか
- 過去の購入価格
- 競合他社の見積もり
- Webで見た価格
- 業界相場
- 社内予算
- 自社の過去提示価格
- 顧客自身の経験
重要なのは、顧客の参照価格が、必ずしも今回の商品に適した比較基準とは限らないということです。
B2Bでは「同じ商品か」を確認する
法人営業では、表面的には似たサービスでも、内容が大きく違うことがあります。
単なるソフトウェア販売なのか。導入支援込みなのか。保守込みなのか。個別設計込みなのか。
研修なら、講演だけなのか。演習付きなのか。事前設計込みなのか。実施後支援まで含むのか。
その違いを整理せず、価格だけを比べれば誤解が生じます。
「高い」は拒絶ではなく情報
営業担当者は、「高い」と言われると否定された気持ちになります。
しかし、交渉として見るなら、「高い」は有益な情報です。
そこには、相手の価格基準が隠れているからです。
「高いですね」と言われたら、反論する。値引きする。ではなく、比較対象を聞く。
ここから交渉が始まります。
今日の実戦ポイント
今回覚えておきたいのは、「高い」と言われたら、何と比べたかを聞け。です。
価格交渉で見るべきなのは、提示価格だけではありません。
顧客が頭の中に持っている、「これくらいだろう」という価格です。
その参照価格が分かって初めて、正しい比較と価格説明ができます。
営業交渉術を体系的に学びたい方へ
価格交渉では、「高い」という言葉の裏にある比較対象を見つけることが重要です。
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営業交渉術137の原理
このシリーズでは、交渉学・心理学・行動経済学・意思決定論・行動科学などから、法人営業の現場で使える137の原理を一つずつ取り上げます。
次回は 「損失回避」。「得する提案なのに、なぜ顧客は動かないのか」を考えます。