「このプランが一番いいです。これにしてください」
営業担当者には自信があります。
顧客の状況を聞いた。商品も比較した。どう考えても、このプランが合っている。だから強く勧める。
ところが顧客の表情が硬くなる。
「いや、決めるのはこちらなので」
内容は良い。提案も間違っていない。
それなのに、押せば押すほど相手が離れていく。
このとき働いている可能性があるのが、心理的リアクタンスです。
心理的リアクタンスとは何か
心理的リアクタンスとは、自分の自由を制限されたと感じると、その自由を取り戻そうとして反発する傾向です。
人は、「これを選びなさい」「今決めてください」「これしかありません」と言われると、自分で選択する自由を奪われたように感じることがあります。
その結果、本来なら悪くない選択肢まで拒否したくなることがあります。
良い商品だから強く勧めていい、とは限らない
営業担当者は、「本当にこの商品が顧客のためになる」と思うほど、強く勧めたくなります。
しかし、営業側の確信と顧客側の納得は別です。
顧客がまだ、比較したい、社内で相談したい、リスクを確認したいと思っている段階で、「これにしましょう」と決めてしまえば、顧客は自分で選べていないと感じる可能性があります。
主導権を取ることと、決定権を奪うことは違う
営業では、「商談の主導権を取れ」と言われます。
しかし、主導権を取ることは顧客の決定権を奪うことではありません。
営業がやるべきなのは、情報を整理する。選択肢を示す。判断基準を明確にする。違いを説明する。
そして、最終的に顧客自身が選べる状態をつくることです。
「おすすめ」より「選択条件」を示す
例えば、「このプランが一番です」ではなく、「もし初期費用を抑えることを最優先されるならAプランです。一方、運用負担を減らすことを優先されるならBプランが合います」と説明する。
すると、顧客は自分の判断基準で考えられます。
そのうえで、「今のお話を伺う限りでは、Bプランが近いと思いますが、どう感じられますか?」と聞けばいい。
これは押しつけではなく、判断支援です。
「今決めてください」が逆効果になるとき
営業担当者がクロージングを急ぐと、「今日決めてください」と言いたくなることがあります。
しかし、期限に合理的な理由がない場合、顧客は「売りたいだけでは?」と感じます。
これも心理的リアクタンスにつながります。
逆に、「今月末で現行条件が終了します」「導入希望日から逆算すると今週中の決定が必要です」など、実際の理由があれば説明できます。
選択肢を残す
顧客に選択の自由を感じてもらうには、複数の選択肢を示す方法があります。
- A:価格重視
- B:標準
- C:サポート重視
重要なのは、「Bを選ばせるための見せかけの選択肢」にしないことです。
それぞれ本当に選べる条件として提示する。そして、顧客自身に優先順位を考えてもらう。
反論されたらさらに押さない
顧客が「ちょっと検討します」と言ったとき、「いや、今決めた方が絶対いいです」と重ねると、さらに反発が強くなることがあります。
そこで、「もちろんです。ご判断にあたって、まだ確認しておきたい点はありますか?」と聞く。
顧客の自由を尊重しながら、判断材料を整理する。これなら対話を続けられます。
顧客自身の言葉を増やす
心理的リアクタンスを避ける方法として、質問も有効です。
- 一番重視される条件はどれでしょうか?
- AとBなら、どちらが御社に近いと感じますか?
- 懸念点があるとすればどこでしょうか?
顧客自身が考え、自分の言葉で選択理由を整理できれば、押しつけられた感覚は減ります。
今日の実戦ポイント
売るな。選べる状態をつくれ。
営業が良いと思う商品を、強く押し込む必要はありません。
違いを整理する。判断基準を示す。質問する。
そして、顧客自身が「これが自分たちに合っている」と判断できるようにする。
その方が、長期的な信頼にもつながります。
営業交渉術を体系的に学びたい方へ
法人営業では、説得力だけでなく、顧客が自分で納得して選択できる商談設計が重要です。
株式会社 会澤FP事務所では、顧客心理、質問、価格交渉、条件交渉などを実務で使える形にした「営業交渉術研修」を提供しています。
押し込む営業ではなく、顧客の意思決定を支援できる営業組織をつくりたい企業の方はこちらをご覧ください。